
朝は、日が差し込む明るいリビングで、コーヒーとパン。

昼は地域のおばあちゃんやおじいちゃんと、縁側でのんびりおしゃべり。

夜は、仲間と焚き火を囲みながら、夢を語り合う。
そこには、都会の喧騒も、将来への不安も、人生の意味を見失うような焦燥感もありません。
ただ、ありのままの自分でいられる。楽しくて、穏やかで、充実した日々があります。
多くの人が憧れても、なかなか手に入れられない理想の暮らし。
どれだけ稼いでも、どれだけ地位が高くなっても得られなかった満足感が、ここ阿東にはあります。

――信じられないかもしれませんが。
数年前の私は、まったく逆の人生を歩んでいました。
副業や転職に失敗し、1年近く仕事も見つからず。
夫婦関係は悪化して別居、やがて離婚。
何をやってもうまくいかず、自信をなくし、心身ともにボロボロになっていたのです。
そんな私が、どうしてここまで変わることができたのか。
この記事では、移住してから独立に至るまでの「阿東での3年間の暮らし」をご紹介します。
1:田舎暮らしのはじまり ― 阿東の大自然に包まれて
田舎の暮らしは、驚きの連続でした。
圧倒的な大自然



まず圧倒されたのは自然の豊かさです。
徳佐に広がる広大な田んぼ、四季折々の姿を見せる山々、エメラルドグリーンの透き通った渓流。
そして本州の西とは思えないほどの雪景色。
阿東には多種多様な自然があふれており、それに触れるだけで疲れた心が癒やされるのです。

とくに徳佐の広大な田んぼは圧巻です。最初にこれを見て、移住を決心したほどです。
私は同じ山口県の下関出身ですが、まさか同じ県でこんなに素晴らしい景色が見られるとは思ってもいませんでした。
地域の人たちとの交流

次に印象的だったのは、地域の人たちとの交流です。
私は地域おこし協力隊として阿東に移住し、最初の仕事は移動販売の販売員でした。
毎日、50件近いご自宅を訪問し、お客さんと会話を重ねます。
そこで高齢のお客さんから「いつもありがとう」と何度も声をかけられました。
失敗続きで自信を失っていた私にとって、その言葉は心に沁み、元気を取り戻すきっかけとなりました。
考えてみてください。コンビニで買い物をしたときに、レジの人に「ありがとう」と声をかけますか?
普通はしませんよね。
でも移動販売のお客さんは、心から「ありがとう!」と言ってくれる。
もちろん私も「ありがとう!また来るね!!」と返します。
これにどれだけ心が救われたことか…。
任期を終えた今でも、この経験は忘れられず、地域に恩を返したいという思いを抱き続けています。
伝統的な文化の体験

そして、お祭りや地域の行事にも驚かされました。
都会で「お祭り」といえば屋台や商業イベントをイメージしますが、ここではまったく違います。
それは生活に根付いた儀式であり、自然の恵みに感謝する営みでした。
地域の小さな神社を皆で清掃し、宮司さんを迎えて祭事を行う。
地域のみんなが集まり、支え合い、喜びを共有する。
都会暮らしで忘れてしまった大切な感覚を、ここで取り戻すことができたのです。
多くの人が憧れる「田舎暮らし」。
阿東では間違いなく体験できます。
しかし――何もかもが良いことばかりではありません。
2:過酷な自然と人づきあいのむずかしさ ― 阿東での田舎暮らしの現実
田舎暮らしには豊かさがありますが、同時に現実の厳しさもあります。
一番の違いはやはり、都会の便利さとのギャップ、そして人間関係でしょう。
雑草との戦いの日々

まず直面したのは自然との格闘でした。
人が少ない分、行政サービスも都市ほど手厚くはありません。
コンクリートではなく土の地面だから、一瞬であたり一面が雑草だらけ。
だからこそ地域の人と協力して草刈りをしないと、景観も暮らしも維持できないのです。
「自分一人で勝手に生きる」という考え方は、ここでは通用しません。
濃密な人間関係

さらに、人との距離感も都会とは違います。
田舎は人と人とのつながりが濃いからこそ、時に人間関係の悩みも生まれます。
都会では隣人を知らないことも普通ですが、ここでは誰もが顔見知り。
ちょっとした噂も一瞬で広がります。
プライバシーを重視したい人には、少し生きづらい面もあるかもしれません。
正直なところ、私は誰もが移住できるとは思っていません。そんなに甘くはありません。
ただ「自然を大事にしたい」「できれば体感したい」という気持ちは多くの人が持っていると思います。
だから、移住まではできない人も定期的に遊びに来ればいい。
そのための場所を今後は事業として展開していくつもりです。
田舎への関わり方は人それぞれ。自分に合った形をとればいいのです。
3:結局は「ひとのつながり」 ― 阿東移住で広がった暮らし

それでも私が豊かな田舎暮らしを実現できたのは、「人とのつながり」のおかげだと思っています。
困ったときに手を差し伸べてくれる人。
私の考えに共感し、協力してくれる人。
その存在があったからこそ、私は前に進むことができました。
古民家のリフォームを始めたのも、仲間や地域の人との出会いがあったからです。
同じ志を持つ古民家仲間たちと活動するうちに、世界が広がっていきました。
お米や野菜を届けてくれる人、声をかけて励ましてくれる人。
そうした支えのひとつひとつが、今の自分を作ってくれています。
もし人とのつながりを求めないのであれば、田舎に移住する必要はないのかもしれません。
自然を満喫するだけなら、観光や旅行で十分です。
ただ、それだけではもったいない。
だからこそ、いろんな人がこの阿東を楽しめる場所を提供していきたいと考えています。
どれだけ稼いでも得られない喜び。
人に支えられ、支えることで触れられる人間の本質。
多くの人が心の奥で望んでいる豊かさが、ここには確かにあります。
それを少しでも体験できるように。
結び:阿東で見つけた理想の暮らし

今日もまた、朝はコーヒーとパンから始まり、
昼は地域の人と笑い合い、
夜は仲間と夢を語る。
そんな日々を過ごせるようになったのは、阿東に来たからこそです。
数年前、どん底にいた自分を思い出すたびに、この今に感謝せずにはいられません。
移住は決して簡単ではありません。
理想と現実のギャップに悩むこともあるでしょう。
だからこそ、まずは気軽に阿東を訪れてみてください。
きっと、あなたにも新しい人生の扉が開けていくはずです。


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